事業の創造 解題(8) 『電車は阪急 お買い物も阪急』

現在、大阪で一番売り上げが多い百貨店は阪急うめだ本店なのですが、阪急うめだ本店は日本初のターミナルデパートとして営業を開始しました。駅にデパートを設置するというのは今でいう「駅ナカ」と同じです。つまり、駅を通る人からお金をいただくということです。梅田駅にあるデパートに向かう顧客は阪急電鉄が輸送するという意図をもっていました。阪急電鉄が輸送する乗客が潜在顧客ですから、デパートに向かうべき顧客層は阪急電鉄が言う「大衆」でした。

最初に鉄道会社が持っていない小売りのノウハウを吸収するために白木屋を誘致したのですが、ノウハウを吸収したと判断したその時点でテナント契約を解除し、日本初の電鉄系の百貨店に切り替えます。電鉄系百貨店が成立すると判断した背景には阪急電鉄が想定した「大衆」が百貨店向きだったと考えるのが自然です。白木屋(居酒屋ではありません、江戸時代の呉服店を由来とする東京日本橋の百貨店です)はのちに東急百貨店に買収されますので、鉄道系百貨店のルーツになったということです。阪急百貨店開店の目的は梅田に来る乗客を増やすことにありました。阪急グループのキャッチフレーズであった「電車は阪急 お買い物も阪急」というのはあくまで阪急沿線の住民に向けられたものでした。

通称「阪急村」と称される梅田でのデパートメントストア、専門店街、娯楽施設、オフィス施設、宿泊施設の開発に伴い梅田までで止まる人が増えたことは間違いなく、梅田の発展と阪急グループの発展は連動することになりました。阪急百貨店はうめだ以外にも出店していますが、梅田本店の持つ独特な位置を覆すことはできないのでしょう、売上規模は低いですね。これは百貨店の持つ意味が単に買い物をする場所ではないということを意味する、言い換えるならばハレの場に出ることを意味するからです。

日本の百貨店は呉服店に由来する会社と鉄道会社が設置した百貨店のいずれかに該当します。単純に三越、伊勢丹、高島屋、大丸、松坂屋などの呉服店に由来する百貨店は創業が古いため、店の格式が高いとされています。このため、阪急信者のいない関西圏以外の地域では阪急百貨店の包み紙より、三越や伊勢丹の包み紙のほうがいいという判断が働くと考えられます。格式は下がるかもしれませんが、乗客の誘致に有効であるとみられるターミナルデパートの概念は他の鉄道会社にも採用されることになり、現在では上野公園の地下に設置されている京成電鉄上野駅を除き、大手民営鉄道のターミナル駅にはほぼすべて百貨店が入っています。

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