事業戦略を検討する場合であっても、マーケティング活動を考えるにしても、創業当初の経営計画策定時においては従来の自分の経験や特性の中で「何を提供できるのか」を決めています。少なくとも事業を始めることそれ自体を目的とする事は余りないと思われます。ただ、創業時に持っている「提供できるもの」をずっと未来永劫提供できるのかは別問題となります。ここでは、「提供できるもの」が「受け入れられるもの」にするには何を検討する必要があるかについて、マーケティングの教科書ではなく、M.E.ポーターの『競争の戦略』を手掛かりに検討して行きます。
ポーターといえば、業種業態を問わずに
①コストリーダーシップ戦略
②差別化戦略
③集中戦略
の三つの基本戦略があることを提唱したハーバードビジネススクールの教授です。ただ、この基本戦略は、企業が
①新規参入の脅威
②既存業者間の敵対関係の強さ
③代替製品・サービスの脅威
④売り手の交渉力
⑤買い手の交渉力
の5つの競争要因に対処し、他社に打ち勝つために必要となる基本戦略で、3つの基本戦略の何れかをするのか複数を選択するのかについては、5つの競争要因を分析することになります。従って、基本戦略をどう採用するかの前にポーターのファイブフォース分析を実施することになります。
まず初めに、新規参入の脅威を検討することにしましょう。ポーターによれば参入障壁は次の6つがあるといいます。
① 規模の経済性
② 製品差別化
③ 巨額の投資
④ 仕入先を変えるコスト
⑤ 流通チャンネルの確保
⑥ 政府の政策
特に我々のような中小零細企業が規模の追求を行うことはできません。規模の経済とは「一定軌間の生産絶対量が増えるほど製品あたりの単位コストが低下する」ことを言い、大規模工場で多量に生産する事を念頭に置いていただけるとイメージがわきます。どのような産業がこの形態に向くか向かないかというものは存在しますが、起業をしていきなり規模の経済を追求することは無いでしょう。
これに比べて、製品差別化とは「既存のブランド認知が高く、顧客の忠実度を勝ち得ていること」を言います。例えばアップルのiPhoneやiPadはブランド認知が高く顧客忠実度を得ている商品といえるのではないでしょうか。iPhoneからandroid携帯に乗り移るのは大変なのかどうかわかりませんが、iPhoneの機種変更はiPhoneである可能性が高いようです。そんな記事を読んだ記憶があります。ちなみにポーターは育児用品、セルフメデュケーション薬品、化粧品、投資銀行、公認会計士の業界は製品差別化が大事といいます。
製品差別化が可能となると、3つの基本戦略のうち差別化戦略を採用することと話が繋がってきます。ブランド力はロイヤルカスタマーの力を借りて長い年月をかけて構築しますが、ポーターによると製品差別化を確保するために「単に業界の第一先行企業」であっても実現することができるといいます。我々中小企業が製品差別化を確保するにはこの「単に業界の第一先行企業」であることを目指すことになるのです。