近畿日本鉄道を題材にM&Aを考える (3)-M&A前夜

近畿日本鉄道はM&Aを活用して成長した日本でも稀有な性格を持つ民営鉄道ですがM&Aを行う前に会社整理を断行します。

 

Kintetsu_Nara_sta_002「会社整理」、この言葉を使う時、整理の対象となるのは支払義務、又の名を債務になります。従って「会社整理」という言葉が出るとき、会社は普通の状態ではありません。「支払不能」に陥っている時です。支払不能が具体的に何を意味するのかは法律解釈によります。一度の債務不履行が直ちに支払不能になるということでもありません。しかし、一度の支払遅延で差押をされることがあるので、一度の債務不履行が支払不能になることがあり得ます。

 

支払不能でわかりやすいのは銀行取引停止処分になることがあります。一般的な判断基準は「債務超過」になることなのですが、債務超過は会計上の用語であって法律用語ではありません。債務超過は 純資産がマイナスになることをいいますが、例えそうであったとしても資金を誰かが投入する限りは支払不能にはなりません。逆に黒字であったしても支払不能になることはあります。従って支払不能になるタイミングは極めて難しいのです。

 

会社整理が行われるということは聞こえが良いのですが、別の言い方をすると倒産処理を行うことをいいます。意外なことに倒産も法律用語ではありません。倒産処理は破産処理と更生処理に分けることができます。法学部における講義は破産処理に限定されます。更生処理は極めて高度な経営手法を必要とするため、学生の手に負えないのです。ゼネラリストとして最高難度の手法が必要とされるのが更生処理です。

 

我が大阪電気軌道は、生駒聖天の援助のかいも虚しく大正四年に会社再建手続きに入ります。これは初期投資の支払が重くのしかかったこと、この支払を軽くすることによって会社が適切に運営されるめどが経つ見通しがあったからです。

 

先に触れたとおり倒産には清算型処理の破産と再建型の会社更生があります。これらの共通点は債権を踏み倒すことですが、その後は破産財団を処分して手続を終了させる倒産と、会社をそのまま残す会社更生ではことなります。特に会社更生の場合は、同じ経営者が同じ様に経営しても再建できるわけが無いと感じるのが普通の債権者の感覚ですから、通常は経営者の交代を行います。これと同時にスポンサーがつきます。スポンサーの役目は再建企業に信用を与えることです。また、会社更生をするためにはその企業の存続が社会的に必要性があるという条件がつきます。

 

これに対して、同じ再建型倒産処理である民事再生は、ほぼ会社更生と同じですが、経営者の交代を求めないという点が大きく異なります。これの意味することはいいません。結果どうなるかも言いません。会社更生より人気があるということだけいいます。

 

大阪電気軌道の場合、生駒隧道の建設が「建設費膨張による経営難を呼」び、会社「大整理」を断行することになったものの、「事業の拡大を可能にし」、「阪奈間の交通に多大な恩恵をもたらし」、ひいては奈良県における現在の近鉄グループの地位を築くことになります。

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