「津波てんでんこ」と緊急時対応プログラム

津波てんでんこ

「津波てんでんこ」、東北地方に古くから古くから伝わる考えとも防災研究家山下文男氏の造語ともいわれるとも言われている、防災に対する独特の考え方です。「てんでんこ」とは人それぞれという意味の方言です。私が聞いた「津波てんでんこ」は次の意味を持っています。「津波が来ると考えられる地震が来たならば、すべての人間関係をいったん清算し、まずは山へ逃げろ。清算した人間関係は逃げ延びた先で回復しなさい。まずは自分が生き延びなさい。他の人も同じ行動をするはずだから、探しに行くだとか家族だからということを考えてはならない。生き残ったか亡くなったかはわからないが、探しに行こうとしたその対象者は貴方が亡くなることを望んではいない。対象となった人間関係を構成した人間を信じて、貴方はまず逃げなさい。」というものです。

一読すれば身勝手なもののように思われますが、津波てんでんこには天災時に限定される緊急対応であること、人間関係に対する絶対的な信頼関係が前提となっていることの2点が前提となっています。人災に対して適応させることは無責任・無秩序を引き起こすであろうことは想定されることですし、弱い信頼関係の中で適用されると不信感をもたらせるだけです。

BCPとしてのてんでんこ

さて、現在のビジネス環境を考えると、すべての企業は自社だけで完結しているモデルを採用していません。このため、バリューチェーンと呼ばれる関係性のどこか1か所が切れても立ち行かなくなりますし、サプライチェーンの1か所が切れても事業継続を困難とします。このため、各企業は事業継続に対して重大な影響を与える災害、障害に対する復旧プログラム(事業継続計画)を用意することを求めています。しかし小規模企業では重大な影響を与える災害、障害がどのようなものであるかの解析やそれに対する復旧計画を立てる能力がないとされており、事業継続計画を立てるための支援機関が存在することになります。事業継続計画というのは事業復旧および復興の手順となるので普段の営業姿勢の中にのみ答えは存在します。我々はその答えを探すお手伝いをすることになります。

しかし、自社が入っているネットワークがどこまで信頼性を置くことができるかによって事業継続計画の内容は左右されるはずです。1995年の阪神大震災で見せたダイエーグループによる神戸の物資提供はグループの総力を挙げたとはいえまずは自社が生き残っていること、自社の属するコミュニティーが生き残っていることが出発点となりました。2011年の東日本大震災においてもイオンやセブンアンドアイが店を開けたのはものを供給する事より「自分は無事である」ことの表明であったと考えます。まずは自社が無事であることを示す。このことが出発点となって信頼を置くことができる企業とのネットワークを機能させることが災害時復旧の基本となるのではということを「津波てんでんこ」の話を聞いて考えた次第です。

企業の場合は、企業自身の法人格とは別にバラバラに非難した従業員をどのようにして再集結させるのかということも問題になります。同じ地域に住んではいないため避難先もばらばらになり避難先からの通勤手段が断絶されることも想定されます。このような中では這ってでも出社しなさいとは言い難いとは思いますが、操業されている会社に希望の灯を見出す可能性もあります。企業も個人もまずは生き残ることがすべての出発点ではないのか、と考えた次第です。

タイトルとURLをコピーしました