経営者向け「孫子」入門(11) 謀を伐つ

IMG_1739孫子第三編の中に、「故上兵伐謀。」という一文があります。読み下し文では「故に上兵は謀を伐つ」となります。兵法書としては意外に感じるかもしれませんが、「戦争において最善の方策は、敵の企図・政戦略を無力化する」といいます。これに続く発言は「戦争の本質をよく知るものは、武力戦を交えずして敵軍を屈服させ、攻撃を用いずして敵の城塞都市を攻略し、戦争を長期化させずに敵国を打倒する」です。ここから言えることは、いかにして敵との戦闘を行わずして、相手が歯向かうことを防ぐか、となります。

この孫子における攻勢の話をそのままビジネスに適応させることは出来ないと思われるかもしれませんが、経営戦略の用語でも見受けられることはできます。「オンリーワン戦略」と呼ばれるものは、競争相手のいないポジションに自社を置くということですから、競争を挑まないという点では通じるものがあると思います。いかにして競争にならずにポジショニングできるか、を考えることが経営戦略の妙味であるということができます。

加護野先生の『事業システム戦略』によれば「競争にうまく対応するコツは、真っ向からの競争を避けること」であるといいます。この言葉は孫子やリデルハート卿につながるものです。同書において競争を真っ向から避けるには差別化を図るということになります。しかもビジネスモデルにおいて差別化を図ることが重要だといいます。小売りの例で述べますと、百貨店とスーパーでは同じようなビジネスモデルであると思われますが百貨店とスーパーで異なるというレベルではなく、セブンアンドアイとイオンではビジネスモデルが異なります。セブンアンドアイとイオンではGMSの業績が悪いのは同じですが、収益の柱がセブンアンドアイはコンビニエンスストア、つまり商品棚の有効活用を図るモデルであることに対して、イオンはショッピングセンター、つまりは土地の有効活用を図るモデルです。どちらが良い悪いではなく、ポジショニングをそのように置いたということです。

イオン真っ向から勝負を挑むことを考える場合、広大な土地の確保を最初に試みる必要がありますが全国区でこれを挑むことはほぼ不可能ですし、セブンアンドアイに真っ向から勝負を挑む場合はセブンイレブン以上の効率をもたらす商品棚を確保する必要がありますが、商品棚を活用するには売れ筋商品を常に補給できるだけの体制が必要となり、全国区でこれを挑むのは大手コンビニだけと制約があります。なるほどセブンアンドアイとイオンの間では競争があることは事実ですが、第三者が彼らに直接競争を挑むことはほぼ不可能です。彼らの競争優位をもたらす商品棚や不動産の運営が「参入障壁」と呼ばれるものになります。

では小売で彼らに勝負を挑むのは不可能なのか、ということになりますが「彼らと同じポジショニングをしなければ可能である」ということになります。そのための武器として経営学を用いることができます。「経営学者は金儲けできていないから経営学は無用である」ということを聞きますが、実はそのようなことはありません。経営学はある取り組みが有効か無効かの判断基準を与えてくれます。

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