「孫子」入門(10) ブルーオーシャン戦略ですよ

IMG_1729孫子第3編は、「孫子日、凡用兵之法、全国為上、破国次之。」で始まります。読み下し文では「孫子曰く、凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ」となります。用兵の極意としては敵と武力衝突することではなく、いかにして武力衝突することなく敵を屈服させるかであるため、どうすれば武力衝突しないかを考えなさいとなります。

孫子といえば兵法書の古典ということで有名であり、20世紀になってから世界的に読まれることになった書物です。この書物には兵法の要諦が記載されているため、その要諦を読み解いてビジネスに生かそうという動きがみられることは、ビジネス書のコーナーにも孫子を読むといったタイトルの書物が多くみられることからもうかがい知ることができますが、その要諦が「戦わずして敵を屈服させる」であることは意外に思われるかもしれません。

しかし、私が経営学を学ぶにあたって最初に読んだ『ゼミナール経営学入門』では「経営者は競争が大嫌い」という言葉が書き出しでした。巷で言う、官民の比較で「民は競争があるから適応者が残り、官は競争がないから前例によることが多い。」、「市場メカニズムによって市場の変化に適応できないレガシーは市場から退出することができる。政策上の都合により本来なら退出しなければならない企業が生き残ることは市場を健全に機能させない愚の政策である。」などの言動は「民間は競争が好きである」ということをいわんとしています。

しかし、孫子や20世紀の「将軍を教える大尉」という異名を持つリデル=ハートにしても、いわゆる派手な戦闘シーンを好まないのが戦略論における大きな特徴となっています。アメリカ海軍第七艦隊のスローガンが”ready power for peace”にあるとおり、軍隊は必ずしもその能力を行使することを是とはしていません。また、先ほど触れた通り、日本経済新聞社が出している『ゼミナール経営学入門』でも経営者は競争が大嫌いなのです。この競争が大嫌いということを実現させるツールが戦略論であり、経営戦略論です。

 

このコラムでテーマにしているのはあくまで「戦略」であって、孫子の記述内容それ自体ではありません。最近では「経営戦略」ではなく「国家戦略」まで登場します。通常、戦略論においては決して「国家戦略」なる概念は登場しませんが、どうやら「戦略」という言葉の響きがいいのか公部門において「戦略」という概念を用いて政策を説明することが多いようです。戦略論においては「国家の政略、政策が決まったうえでその内容を実現する方向性が示すことが戦略」を言います。

実は戦略論は軍事用語であるため、戦略の何たるかを表に出すことはほとんどありません。この概念を輸入した経営戦略論では、ポーターの「競争戦略論」がスタート地点に立ちます。軍事上の概念とは違って、基本的に「競争を優位につけるためのポジショニング」を考えるように要請します。競争者のいない大海原を進むブルーオーシャン戦略は究極の競争優位であるという理解をしております。

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