J.C.ワイリー『戦略論の原点』を読む(5) 今までの戦略理論

 ワイリー提督は戦略理論を、マキャベリやクラウゼヴィッツあるいはリデル・ハートによる陸上戦略理論、マハンやコーベットによる海上戦略理論、ドゥーエによる航空戦略理論、毛沢東による低強度戦闘戦略理論(一般的な用語ではゲリラ戦戦略)で分類しますが、ここでは軍事理論を検討することを意図するものではなく頭の動かし方の手がかりを戦略論の議論に求めているだけですから、その分類については触れません。どうしても内容を簡潔に理解しようとすれば『戦略論の原点』第5章を参照ください。それぞれについて簡潔にまとめております。ただ、米陸軍航空軍第20空軍第21爆撃兵団による都市無差別爆撃とベトコンのボー・グエン・サップの戦争指導現実を説明するのに彼らの理論を用いることができるということだけを示しておきます。

  経営戦略論はミクロ経済学の応用分野である産業組織論の応用の側面と兵学である戦略論の応用の一側面がありますが、経営戦略論の現状はミンツバーグが『戦略サファリ』を述べた状況を整理されたほどまとまっている状況にはないと考えます。経営戦略とはこのようなものであるとするぼんやりとした共通了解があるものの、論者によってはばらつきがあるという状況ではないかという感じです。経営戦略論の概説を知るには『経営戦略全史』を紐解いていただければだと考えますし、経営戦略の概略をつかむには『ストーリーとしての経営戦略』を紐解けばいいと思います。ただ、あくまで概略を把握することと、道具としての経営戦略を使いこなすことは違いますので注意が必要です。

 では、改めて戦略とはワイリー提督によれば「何かしらの目標を達成するための一つの『行動計画』であり、その目標を達成するために手段が組み合わさったシステムと一体となった、一つの『ねらい』である」と定義されます。ポイントは「結果」ではなく「目標と計画と手段が組み合わさったシステムが一体化されたもの」だということです。ここから私は判断基準と頭の動かし方が含まれていると読み込んでいます。また、経営戦略はどのような立場を採用するかは別にして次の特性が存在します。①経営戦略は自分と相手の関係を考えるものである。②経営戦略は中長期的視座を持っている。③経営戦略は実行可能性が問われる。④経営戦略は思考の枠組みを提供する。⑤事後には正しいか間違いであるかの判断は可能である。ワイリー提督による戦略の定義と大きく違いはありません。

 再度、優れた戦略理論に必要な特性は何かと検討すると、使われる局面から自分の優位性を確立するために用いるものですから相手から読み切れないものがよいわけです。また、実行可能性が問われるものですから理解しやすいものが良いわけですし、中長期的視座を持っているのであやふやではないものが良いのですが、事前にはわからないのであやふやな状態の中で用いるものです。混然一体となったシステムが一体となったねらいですからあやふやを許容するものです。従って単純であるはずがないものです。

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