株式上場準備へようこそ(3)

 第一の事業承継に役立てたい点については所有と経営の分離を実現することから、所有権者が広く社会一般に変わるということです。事業承継において承継するべきは所有権と経営権ですが所有権の承継を考える必要がありません。なぜなら、株式上場による効果は事業承継のうち所有権者が社会一般になることです。一般論ですが、株式会社は「所有と経営の分離」が原則であると説明されていますが、現実には上場企業以外に所有と経営の分離はできていません。むしろ所有と経営の一体化が推奨されています。これは安定した経営権の背景には所有権が必要である、言い換えるならば与党株主の存在が安定した社長の権力の背景にあるということです。実はほとんどの非上場企業においては所有と経営は一致するか経営権は所有権を意識することなく権限を行使することが出来る状態です。また、上場企業が非上場化する際において理由にされるのが「短期的利益を目指す株主の声が企業経営に邪魔だ」ということで株式買戻しを行った企業も存在します。ちょっと古い話ですが、西武鉄道が堤家の持ち物であったころ、親会社の国土計画ではなく子会社の西武鉄道が上場していたのは、上場の果実を獲得しつつ所有と経営の一体化を維持する方策として用いられたものです。最近ではサントリーの上場がこの形態を採用しています。

 この話と事業承継がどう繋がるかとを言うことですが、所有と経営が一体化している場合は承継させるために所有と経営を一体化させるためにはどうすればいいかを考えるか、分離させるかを決定する必要があります。未上場企業における事業承継は相続税法(相続か贈与)の規定に大きく左右されるという特徴があります。未上場企業における事業承継は絶対的な経営権とそれを保証する所有権の双方を承継させるために、まずは所有権を承継させる必要があります。企業の所有権について経済的価値がないのであればとりたてて問題視する必要がありませんが、会社には経済的価値があることからこの価値がいくらであるか評価する必要があります。この評価額を決定するのが相続製法と財産評価基本通達であり、株式の承継に伴って相続税あるいは贈与税が発生します。これに対して経営権は法的な財産性(法的財産性具体的な意味は分かりません。あえて言えば物権ではありませんが債権ではあります。ただ、経済的価値の算定は所有権に対して行われることから経営権に対してはできません。)がないからということで、財産額の算定が不可能となっています。これに対して上場企業は原則として所有と経営が分離されます。所有と経営が分離されるということは企業の所有者が所有権の移転にもとなって初声する税金(所得税、法人税、相続税、贈与税)の負担を行います。所有権には市場価格、言い換えれば時価が存在することから所有権は時価で評価されます。税金の問題は所有に伴って発生しますが、経営権に対しては先ほどもぶれましたが税金の問題は発生しないことから、税負担なく経営権を入手することができます。上場企業において社長交代に伴って税負担が発生するというニュースが存在しないのはこの点に由来します。事業承継問題に対して税金が発生するのは所有者に対してであって経営者に対してではありません。上場企業では中小企業のような事業承継問題が発生しないのはこの点によることが大きいです。

 第二点は株式上場が組織力を向上させることが多いです。会社法によれば会社とは営利社団法人とあります。社団法人とはある目的を実現させるための人の集合体を言います。ある目的を実現させるための人の集合体を法律では法人といいますが、近代的組織論という経営学の一派(バーナード=サイモンによる定義)では組織といいます。そこで、組織力の源泉がどこにあるかを検討します。近代組織論によれば、組織力は組織メンバー相互の目的意識の集合体であるといいます。また、民法理論では社団法人においてメンバーの意思は同じ方向に向けられているとされています。厳密にいえば経営学上の組織と法律上の組織は同じ対象を指すものではありません(経営学は従業員の集合体、法学では株主の集合体)が、構成員の能力を最大限に発揮した上で、意思統一を図ることが組織力向上には求められることだけは間違いないです。具体的に意思統一を図るための方策を検討することは別の場所で行いますが、意思統一を行うことによって組織力を高めることができることだけは認めていただけると思います

 組織力を向上させることと株式上場の関係性について検討します。組織力向上は上場企業に限らずすべての企業に求められますが、上場企業は未上場企業と比較すると存続の担保が組織力だけに限定されることから、未上場企業と比較して企業井地の動機が強くなります。といいますのも、未上場企業に於いて組織存続の担保は所有者である経営者の意思が大きな要素を占めますが、これは所有と経営が一体化されていることによります。所有者は所有物に対して自由な収益と処分ができる、と民法学は講じています。このため経営者は会社を「煮て食おうが焼いて食おうが自由」です。これに対して上場企業では経営者が自由な収益処分ができず、所有者である株主から収益の最大化と安定的な配当及び永久的な存続を求めます。経営者と所有者が分かれていることが永久的な存続を求められることになり、経営者の一存で会社の解体を行うことができません。事実、会社の解散には株主総会の特別決議が必要ですので、会社は存続させることが求められます。この性格から創業社長は心血を注いだ我が子のような会社を自然人の寿命を超えて存続させることを求めるのであれば、所有と経営を分離し広く社会に所有者を求めることが必要となります。

 株式上場は資金調達のために行われると説明されますが現実には資金調達目的で行うには支払うコストが他の調達手段と比較して大きいものです。さらに、ほとんどの上場企業では株式流動性の観点から公募増資は一度しか行うことができません。従って資金調達の観点から株式上場を行うというのは合理的ではないという人すらいます(かくいう私もその一人です)。これに対して株式上場は事業承継問題の解決の有効な方法である面と組織力の向上を促すために最も有効な方法であり、これらの結果会社が存続させやすくなります。私は株式上場を勧める要因はこれら二つではないかと思っています。決して容易な道のりではないかもしれませんが、株式上場には大きなメリットが存在します。これから株式上場準備への旅に参りましょう。

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