J.C.ワイリー『戦略論の原点』を読む(10) 20年後の結論

 ワイリー提督は自ら提唱する総合戦略理論について20年後に振り返った章を設けます。このため、前回のタイトルが「とりあえずの結論」となった訳です。20年間の時の重さに耐えた結論は結局次の通りとなります。

  ①戦略家が実戦時に目指さなければならない最大の目標は、自分の意図した度合いで敵を「コントロール」すること

 ②これは戦争のパターンを支配することによって達成されること

③この戦争のパターンの支配は、味方にとっては有利、敵にとっては不利になるようなところへ「重心」を動かすことによって実現される

従って、成功する戦略家というのは、戦争の性質、配置、タイミング、そして「重心」をコントロールし、そしてそれによって生まれた戦争の流れを自分の目的のために利用できる人のことを言う

ワイリー提督の意図は知的検証に耐えうる理論を構築することにありましたが、その背景にはプリンストン高等研究所のフォン・ノイマン教授とイエール大学のハロルド・ラスウエル教授から得た「適切な専門用語を駆使して構築された理論が登場して初めて知的検証に耐えられる理論かどうか検証できる」とする助言であったといいます。ただ、戦略は軍人という実務家によって構築及び検証され、特に構築された戦略そのものの成否は人命がかかっているので、果たして整理、分類してオープンな環境で検討、整理され議論されることになじむかといわれると疑問を感じます。が、知的作業を通じて整理・発展した戦略理論は未知の事象に出くわしたときに対処する手掛かりを与えてくれる目的で理論化されていますので、ある人にとって未知の事象が生じたときに戦略理論は先に示した糸を実現するべく思考をし、行動することができるようになります。このことが理論家の持つ意味であるというのはあらゆる理論に通じることです。この概念を拡張、応用した書物に柴門ふみの『恋愛論』(成立年代から明らかにスタンダールの『恋愛論』は入らない。)が含まれるかどうかは知りませんが、ワイリー提督は恋愛に応用してくださいといっています(正確には若い女性を獲得することを戦略のねらいとすることができる、です)。 従って、成功する戦略家というのは、戦争の性質、配置、タイミング、そして「重心」をコントロールし、そしてそれによって生まれた戦争の流れを自分の目的のために利用できる人のことを言う 。

 ワイリー提督の意図は知的検証に耐えうる理論を構築することにありましたが、その背景にはプリンストン高等研究所のフォン・ノイマン教授とイエール大学のハロルド・ラスウエル教授から得た「適切な専門用語を駆使して構築された理論が登場して初めて知的検証に耐えられる理論かどうか検証できる」とする助言であったといいます。ただ、戦略は軍人という実務家によって構築及び検証され、特に構築された戦略そのものの成否は人命がかかっているので、果たして整理、分類してオープンな環境で検討、整理され議論されることになじむかといわれると疑問を感じます。が、知的作業を通じて整理・発展した戦略理論は未知の事象に出くわしたときに対処する手掛かりを与えてくれる目的で理論化されていますので、ある人にとって未知の事象が生じたときに戦略理論は先に示した糸を実現するべく思考をし、行動することができるようになります。このことが理論家の持つ意味であるというのはあらゆる理論に通じることです。この概念を拡張、応用した書物に柴門ふみの『恋愛論』(成立年代から明らかにスタンダールの『恋愛論』は入らない。)が含まれるかどうかは知りませんが、ワイリー提督は恋愛に応用してくださいといっています(正確には若い女性を獲得することを戦略のねらいとすることができる、です)。

 翻って、経営戦略の世界でも類似の事象が生じます。まず、経営戦略論を必要とするのは実務家であり、研究者は過去に起きた戦略について一定の専門用語を用いて、有限回数の知的操作を行い、そこから結論を導くことによって理論化を行います。実は研究者と実務家では役割が異なりますが、いずれの役割であっても経営戦略を構築し、実行に移すためには知的訓練を受けた者が必要となります。実務家だから実践だけすればいいのであって知的訓練を必要としないということはありません。逆に研究者は新しい知の発見を行いその結果を社会に伝授して反映させ、人類の進歩に貢献することが役割となりますが、その際に実務を全く知らないとなれば研究にリアリティがないかもしれません。特に、経営戦略論は論者によって内容を意図的にずらしている可能性があるので百家争鳴という世界でもある気がします。ですから、経営戦略を組み立てる際には知的訓練を受けた参謀役が必要となる、と私は考えております。ただ、この種の人間は社内のプロパーである方が有利ですが、高度に専門化されているので社内でプロパーな人間として確保するのが困難である企業もあるとだけ指摘しておきます。

参考文献 

 Wylie J.C. “Military Strategy : A general Theory of Power Control”

  (J.C.ワイリー『戦略論の原点』)

伊丹敬之『経営戦略の論理(第4版)』

Poeter M.E. “COMPETITIVE STRATEGY”

(M.E.ポーター 『競争の戦略』)

加護野忠男・井上達彦 『事業システム戦略 事業の仕組みと競争優位』

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