経営者向け「孫子」入門(9) SWOT分析はきついわ

竹製『孫子』

竹製『孫子』

孫子第三編は、「故日、知彼知己者、百戦不殆、不知彼而知己、一勝一負、不知彼不知己、毎戦必殆」で終わります。読み下し文では「故に曰く、彼を知り己を知れば百戦殆からず、敵を知らず己を知れば一勝一敗し、敵を知らず己を知らざれば毎戦必ず殆うし」となります。特に、彼を知り己を知れば百戦殆からずのコメントは孫子の中ではよく引用される文ではないでしょうか。事業計画書の作成本にはSWOT分析やバランスドスコアカードなどの技法が紹介されているのですが、だれでも使える代物ではありません。

ここまでは前回の文書そのものですが、私も属する大東異業種交流研究会の2015年5月度例会において、今後1年間のテーマとなる「ベンチマーキング」の手法を学ぶために専門家の先生(ちなみに、私は大東異業種交流研究会においては「税理士業界」の人間として登録されています)をお迎えしたのですが、SWOT分析とバリューチェーン分析を組み合わせたシートとクロスSWOT分析が出てきたものですから、例会参加者は理解しようとは試みたものの拒絶反応を起こしました。なるほど普通の経営者は普通のSWOT分析が嫌いであるということを実感した次第です。

『ビジネス版悪魔の辞典(ISBN978-4-532-19402-4)』という素晴らしいビジネス用語解説辞典によれば、SWOT分析を、①思い付きの戦略を、もっともらしく見せるお膳立て、②教科書ではSWOT分析の結果、戦略が導き出されると書かれているが、一度でも戦略立案の仕事をした人は、その順序に疑いを抱く、とあります。多分①はその通りで、日本人の場合は②もその通りだと思われます。なぜなら、まさしく大東異業種交流研究会での社長の反応がこれを物語るからです。

では私は何をするのかといえば私もクライアントにSWOT分析をやるのですが、ヒアリングをベースにすることと、ストレートに聞かないことをベースにするという2点がポイントとなります。理由は2つあり、一つ目は文字通り通常の経営活動において経営者がSWOTを意識することはないということ、2点目はよしんばSWOT分析をできるとしても言葉にすることが困難な方が多いため、私の側で言葉を引き出すことが参考になることが多いことです。原案を出すより原案を批評する方が簡単であるようですから、私の側で困難な活動を実行することが有用であろうと思うからです。

私は自分の強みを「経営学で用いられる道具を一通りそれとなく使いこなすこと」と置いていますが、これはただの思い込みかもしれませんし、私と似た方は、少なくとも経営企画部門にはゴロゴロといるので強みと認識しないことが正しいのかもしれません。あるいは自分が弱みと思っていたことが競争力の原点であるのかもしれませんし、自分の強みを見るのに自分の目より第三者の目で見る方が有用なのかもしれません。こういった場合に有用となるのが信用のおける専門家です。

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