近畿日本鉄道を題材にM&Aを考える (2)-創業時資本金を考える

現在は資本金そのものが会社の規模を表すことはありません。また、最低資本金額が1円でも会社設立は可能です。会計学及び会社法上で資本金の意味を見出すなら「資本として払い込んだ金額のうち資本金と命名されるもの」をいい、払込金額の50%を越えれば良いことになっています。資本金について、私個人の経験で貸借対照表上の資本金がマイナスであり、税務署が是認したので問題ないと判断したという理解しがたいことがあったのですが、このこと自体は問題視しません。ただ、本コラムを執筆するきっかけになっています。

 

開業直後の生駒トンネル

開業直後の生駒トンネル 1914

本コラムのタイトルにも掲げていますが、近畿日本鉄道はM&Aで企業規模を拡大した稀有な民営鉄道です。しかし大阪電気軌道として開業した当初は運転資金不足で悩まされますが、創業時に企業規模に比べて過大資産を保有する結果になったことが理由です。近畿日本鉄道のホームページにも記載されていますが、大阪電気軌道は資本金300万円に対して生駒トンネルの建設費だけで269万円を必要とし、生駒トンネルを加えた路線の建設工事だけで787万円必要となりました。このため、営業開始時までに資本金300万円のほかに社債と合わせて600万円の資金調達を行いましたが、開業時で187万円の資金不足となり、運転資金の捻出に苦労することになります。

 

大企業や政治家が設立に影響を与えている大阪電気軌道ですら開業時運転資金調達が困難であるのに、一般企業の開業時運転資金調達が簡単とは行きません。従って、大企業のバックを持たない我々が創業を考える場合は初払込資金計画について十分な検討が必要です。例えば創業時資金の借入を2015年4月現在で日本政策金融公庫国民事業(いわゆる国金)に申し入れた場合、自己調達額の10倍が貸出の限度となっています。いくら資本金の制約が少ないからといっても、払込資本については金額をいくらにするかは適当に決めることは出来ません。あくまで事業計画をベースとした資金計画に従って決定する必要があります。

 

当初払込資本に限定すれば、初期設備投資額と営業循環サイクルが確立するまでの運転資金額の合計額を調達資本とします。調達資本のうち自己資本と他人資本(=借入)をどの割合にするかについてはファイナンスでMM(モディリアニ=ミラー)理論が存在しますが、中小零細企業が割合を検討する際には、基本的に創業時を逃すと安定的に営業循環サイクルが回らないと借入に応じてくれる可能性は低いということを念頭に置く必要があります。言い換えるならば可能な限り借りてください、ということです。特に日本政策金融公庫国民金融事業では返済がある限り問題にはなりません。

 

先ほど触れた大阪電気軌道の場合は、開業したその瞬間に運転資金がないという事態になりました。ちなみに大阪電気軌道は建設費予算300万円、収入38万円、支出17万円で事業計画を作成したのですが、設立時事業計画が破たんした大きな理由は1913年1月26日に起きた生駒隧道岩盤崩落事故であり、そのほかの工事予算も予定超過したようです。

 

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