孫子を読む(6) 「戦争は目的達成で終結させる」

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 孫子第2編は「作戦編」となっています。内容は戦争を始めるにあたり準備しなければならないものが国家経済の観点から、戦争がもたらす害悪を指摘します。戦争をするための資材の確保、資金の確保、兵士の確保を行うにあたり国の負荷がかかることを問題視します。また一旦戦端が開かれたら、補給が続く間に短期で決着をつけることが重要であり、長期戦になってはならないと指摘します。これは長期戦になると、資材不足や兵士の士気不足により勝利がもたらされることはない、ということです。

 

 さて、戦争において最も重要なことは目的の実現であって、長期間の戦闘ではないということです。さらに、短期で目的の実現を行うことは良い結果をもたらすことがあったとしても、完全な勝利を目指して長期戦を挑む場合に良い結果をもたらした例を知らない、といいます。この点についていえば大東亜戦争において国家の無条件降伏を戦争目的としたために、国土が焦土化された例をもってすれば理解ができるかと思います。このため、長期戦を行うことによって生じる弊害や危険性を知らないものは、戦争指導者としての適性に欠けるといいます。

 

 孫子は戦闘による勝利を必ずしも是認しません。このため、長期にわたる作戦行動を嫌います。むしろ短期での戦闘の結果得られた少しの勝利でいいのではないかといいます。そのように述べる別の理由はこの後の章で登場しますが、今の段階では兵站すなわち物資調達と補給の面から問題が生じるために長期戦を嫌います。

 

 ビジネスの世界において長期戦を嫌うかどうかは一概に言えません。新製品の開発に20年かかるであるとか、リニア新幹線には10年単位の建設期間が必要であるといわれていることから考えると長期戦ということは当然にあり得ます。もし、問題となるならば長期戦になるということは、計画した期間比較して長期戦になることかもしれません。

 

 ビジネスの世界において兵站という言葉が登場することはあまりありませんが、ビジネスにおいてもサプライチェーンという兵站に似た概念は登場します。これは川上の原料供給から最終商品販売までの一連の動きを分析して商品供給のどこで価値を生むかを検討することによってビジネスのありようを検討することになります。この背景にある考え方がポーター教授が提唱した「価値連鎖分析」であり、加護野先生が提唱した「事業システム戦略」となります。理論の背景はそれぞれ異なりますが、エッセンスを見る限り「事業目的を達成させるための組織設計をして、その設計した組織が機能するかどうかを分析せよ」ということになります。この中で1年で終わるところを2年かけると長期戦になると思いますし、目的達成が明示されないといつまでもずるずる投資されるといった現象がみられると思います。

 

 孫子は長期戦の害悪を国民経済の観点から述べましたが、ビジネスの世界では長期戦になると資金不足と従業員のモラール低下という形で現れることになります。

 

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