『孫子』入門(2) 五事七計詭道十三変

Sun_Bin「孫子」が読み継がれている理由は一般的に「冷徹な人間観察を踏まえた普遍的な記述にある」とされています。この解説をひねくれて読めば「普遍的であるということは与えられた状況によってはどうにでも読める」ということがいえると思います。事実、20世紀最大の軍事思想家といわれたリデルハート卿はその著作「戦略論」で自分の都合のよいように引用しているということが起きています。もちろん、「自分の都合のよいように」とは批判者の言葉ですが、縄文時代(中国の戦国時代に成立したといわれている)に書かれた書物を21世紀に読むことの意味は、その書物から何かしらのヒントを探すこと以外にはないと考えています。これ自体は私自身の本を読む基本的スタンスです。

 「孫子」が21世紀に住む我々に与えてくれるのは「思考の枠組み(一般には概念フレームワークという専門用語を使います)」であると思うのです。つまりは頭の動かし方です。ビジネスシステムを設計するに際して考慮するべき要素を明らかにしたものが孫子であるということです。これが戦場に赴く将軍であれば作戦立案及び実施時に考慮する要素を明らかにしたということになろうかと思います。私は確認のためにイラクに行ったことはありませんが、湾岸戦争時にアメリカ軍は全兵士に「孫子」を持たせたといいます。

 アメリカ人も読んだという孫子が提供するフレームワークは、前回も述べた通り「五事七計詭道十三変」ですがそれぞれには役割があります。五事には「おのれ自身の主体的力量を検証」すること、七計は「彼我の力量を比較する」こと、一詭道は「行動の原理」をそれぞれ表します。現在の経営戦略論が用いる言葉を使えば、SWOT分析ということでしょうか。SWOT分析といえば「教科書ではうまくいくのに現場では全く使えない手法」として有名です。どうすればこのように分析できるのだ?というのがSWOT分析を実施する人間の通常の意見ですから、「孫子では使えなのではないか」という意見もあるでしょうが、あくまでフレームワークをどう使うかが心がけとして必要です。

 五事のうち「道」は前回触れました。残りのうち天と地は自身の環境というより自身を取り巻く自然環境ということになります。自然条件は同じように作用しますが、どのように利用するのかについてはそれぞれの力量にかかっているということです。第四番目の将は、指導者として要求される力量で「将帥の智慧、誠実、仁愛、勇気、威厳」がその要素です。威厳、勇気という順序ではなく、智慧、誠実、仁愛の後に勇気と威厳が来ていることに注目するべきでしょう。あくまで社長と社員がともに歩んでいく姿勢を読み取ることができるというのは私だけでしょうか。最後の項目は「法」です。ここで言う法は「制度」です「組織、編成、管理、統制力、人員と適材適所に配置する人事制度、サプライチェーン」がその要素です、って兵学にはサプライチェーンはありませんが、ここでは経営戦略論として読んでいるため「兵站」ではなくサプライチェーンとしています。

 自分についてこれらについて「徹底的に研究する」することが必要であるというのが孫子の立場です。SWOT分析ではなくSW分析ですかね。このように述べてみると、昔からいわれることはあまり変わらんということではないでしょうかね。私の大学時代の先生の一人である中川祐夫先生は「松井君、人間なんて二〇〇〇年考えることは変わらないんだよ」ということを思い出します。多分、古典を読む理由はここにあるのでしょうね。