第5章 競争と協業

 事業システムの経済分析においてポイントとなるのは、競争と協業をどのように設計するのかということです。完全競争がなじむ場合もあるでしょうし、完全協業がなじむ場合があるでしょう。但し、完全競争ならばぎすぎすし、完全協業ならば馴れ合いになる可能性があります。そこで、通常は「自律的協業:競争と協業」、競争よりも協業に重点が置かれている状態にあります。自律的ということは個々の構成員は競争関係にありますが、全体としては共同体として機能する状態になるのです。

 士業の世界は自律的協業の世界です。個々の弁護士、公認会計士、司法書士や税理士個々は競争関係にありますが、全体としてみれば自ら属する自治組織に従って活動します。建前として、士業は同じサービスを提供することになっていますが、現実には個々の士業者は提供できるサービスが異なっていますし、やり方も違っています。ここに競争関係が発生するのですが、全体としてみれば専門家として一定のクオリティーを確保する必要性があり、制度発展のために協業する必要があります。実際のところ、士業間で競争が起こっています。これは、弁護士と公認会計士の資格を持っていればその他下位資格は不要ですが、下位資格側が職分領域を侵しているということで競争するという状態になります。また、資格はその性格上、専門家として最低限の知識があることを担保しているにすぎませんので、資格があれば何とかなるということではありません。

 最近、「合同事務所」という形態が多くなりました。これは顧客に対してサービスをワンストップで提供する目的で設置されているものです。合同事務所内では顧客の取り合いということはありません。士業の場合専門分野がそれぞれに異なるからできるもので、一人の顧客から受けた相談に応じて適切な士業に振り分けるということが行われています。この場合、問題になるのは収益の分配です。同じ事務所を使っているので固定費はその事務所に属する個々の士業にかかってきますが、収益は相談を受けた人間が独占するとなると合同事務所経営は破たんします。合同事務所はあくまで個人事務所の寄り集まりですので、事務所自体に法人格はありません。さらに、資格によって単価が異なりますので単純に頭割りということもできないようです。この問題を解決することが継続的な合同事務所の経営に必要なこととなります。

 公認会計士の世界は早くから行われていましたが、弁護士、司法書士、税理士なども「法人化」が行われるようになりました。公認会計士の場合は企業の資金調達活動が国際化することに対応して、国際的な会計事務所に対抗する目的で昭和の時代に法人化が促されました。このようにして設置されたのが「有限責任監査法人トーマツ」を第1号とする監査法人です。企業会計は国際化する要素があるのですが、国家との兼ね合いから仕事をするほかの士業の場合は国際化に対応するために法人化するということはあまりありませんでした。なぜならば、制度は国によって違うからです。そのため、弁護士や司法書士、税理士は個人開業が基本であることが多かったのです。しかし、中小企業の企業活動が国際化するにつれ各士業が高度化と国際化に対応する必要に迫られました。個人で業務の高度化、国際化に対応するのには限界が出てきました、事例の蓄積、業務の標準化、多国籍展開を行うために弁護士と税理士に法人化の動きが出てきています。

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