予測と制御 第4章事業システムの理論的枠組みを受けて

事業システム論の本質は「システムの制御」にあります。これに関連して、テクノロジーの本質は「予測と制御」にあるといいます。では、「予測と制御」が及ばないものは、ということになりますとアートがこれに該当します。そこで、予測と制御が及ばないアートとは何かを踏まえながら予測と制御について考えていきます。

ハープの弾き語り奏者TOMOKOさん。アートの住人です。

アートといえば、文学、美術、音楽などが当てはまりますが、これらに共通するものは、教育が効かないということです。大学には文学部や芸術学部が存在するのではないかという指摘があるかもしれませんが、一定のカリキュラムに従った教育を受けた人ならだれでも芥川龍之介、ピカソ、坂本隆一になれることはありません。つまり一定の手順を踏めば芥川龍之介の小説を書けるということはありませんし、ピカソと同じ芸術性のある絵画が書けるということもありませんし、坂本隆一と同じようにアカデミー賞を取ることができるということもありません。つまり、作品の出来について予測ができないから制御することはできません。

これに対してテクノロジーは予測と制御を行う術です。辞書的な意味は横に置きますが、予測とは結果について確率論に基づいたモデルが作られることを言います。モデルは目の前で起こる現象のうち一部を切り出して構築することになり、教育を受けた人間ならば誰でもわかる「言葉」で記述されます。モデルは意図的に変化させる部分と変化させない部分に分けることができます。制御は、モデルにある意図的に変化させる部分を変化させて結果の範囲を絞り込むことを言います。予測と制御は一定の手順によって行われますので、適切な教育を受けた人間であれば同じような結果をもたらすことができます。この「誰でも同じ結果をもたらす」という点でアートと異なります。

ビジネスの世界においては、テクノロジーとアートが混然一体となっています。すべてがテクノロジーでも、すべてがアートでもありません。アートの要素の強いビジネスを「狩猟型ビジネス」といい、テクノロジーの要素が強いビジネスを「農耕型ビジネス」と言います。狩猟について言えば武器の使い方についてはテクノロジーではありますが、狩りができるかどうかはアートの世界、つまり予測と制御ができない領域になります。これに対して農耕は天候や災害は予測不能ですが、施肥、植え付け、収穫については予測に基づいて実施しますので、テクノロジーの世界です。

実行可能な事業計画とは、計画の中に予測と制御が組み込まれているものを言います。つまり、成り行きに任せる部分を最小限化し、計画を実行することによって結果を予測し、実績が予測の範囲内に入いるように制御します。急激な事業環境の変化、実力を無視した計画などによって予測と制御が不可能になった場合は、事業計画を見直すことになります。これに対して事業計画が破綻していないにもかかわらず、計画目標が達成できていない場合は実行内容を見直すことによって計画目標の達成を図ります。実際のところを言いますと計画が破綻しているのかどうかの判断は困難ですが見極めは必要です。

繰り返しますが、予測と制御は一定の手順に従って実行します。このことは、教育を受けた人間ならだれでも実行が可能という事であり、追体験が可能ということでもあります。農耕型ビジネスは追体験可能なビジネスであり、ビジネスシステムは一定の方法で記述可能です。これに対して、狩猟型ビジネスは追体験不可能なビジネスであり、ビジネスシステムは一定の方法で記述不可能です。農耕型ビジネスは再現性があることは間違いないのですが、他社が真似できるかどうかは別の問題です。

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