事業再構築を考える(6) 「MARSとCOMTRAC」

1.座席予約オンラインシステムMARSの登場

東海道新幹線開業時当時国鉄の特急列車は全席指定でしたが、座席指定の確認は東京にある座席予約センターに問い合わせて回答を得るというもので、ある程度の時間がかかっていたということです。新幹線開業に合わせて供給座席数が増えるため従来の座席予約管理法では対応できないことが明確になり、アメリカン航空が導入したオンライン座席システムSABREを参考に、日立製作所を主契約者として世界初のオンライン列車座席予約システムMARS ”Multi Access seat Reservation System” は開発されます。初代MARSは操作性を従来の座席予約センターへの照会法と同じにしたといい、現場への負担を軽くしたものとなりました。

このように述べるとMARSは新幹線開業に合わせて開発したように聞こえますが、実際はMARSの実用化が先です。またSABREを参考にMARSは開発されたと述べましたが、参考にしたのはオンラインで処理をするという方法だけで、日本人が独力で初めて開発したリアルタイムオンラインシステムであり、MARSは爾後の情報産業を発展させたものとして、2008年には、MARS1が電子計算機技術のオンラインリアルタイムシステムへの応用の可能性を示したこと、現代でも実際に使われているシステムへの発展の基礎となったことを評価され、電気学会の電気技術顕彰制度「第1回でんきの礎」に選定されています。また、現時点では、会員のみでかつ一部のJRの商品に限定されますが、インターネットにさえつながっていればリアルタイムオンライン予約が可能となっています。

前回近畿日本鉄道のASKAシステムを触れましたが、ASKAはMARSを参考にして開発されたものですし、MARSは現存する世界最大級のリアルタイムオンライン予約管理システムであり、能力はASKAとけた違いです。MARS端末は全国のJRの駅のみならず提携旅行会社にも設置され、東京にあるサーバーで集中管理する形態をとっています。販売対象は、JRの乗車券のみならず、民営鉄道の切符、宿泊施設の予約、提携旅行商品の販売から、航空券、娯楽施設にまで及びます。現在のMARSで販売できる切符の例を示しますと、「宝塚歌劇を観劇した帰りに大阪でホテルに宿泊し、次の日に新大阪から東京駅までのぞみ号に乗車し、さらに成田エクスプレスに乗り換えて成田空港まで移動して、JAL006便のニューヨーク ジョン・F・ケネディ空港行きの切符」の発券を1か所の端末から出来る能力があります。リアルタイムオンライン処理を実現するMARSの開発は現在の情報化時代を支える技術の基礎となったことから、電気学会に表彰されたといえます。すなわち、国鉄のリアルタイムオンライン予約システムMARSは情報産業の育成に貢献しているといってよいでしょう。

https://www2.iee.or.jp/ver2/honbu/30-foundation/data02/ishi-01/ishi-2122.pdf

2.新幹線運行管理システムCOMTRAC

これが運行管理システムの一部です。

新幹線の運行は、コンピュータ支援を前提としています。単純に最高時速210キロで走行する運転台から信号を視認することはできないため、従来の閉塞方式を採用することが出来ないことが由来です。このため、車両と運行指令所は電子情報でやり取りをする必要がありますし、信号への機械的に送ることは不可能です。またポイント操作などを従来からの駅員の視認による操作では対応できないことは明らかになりました。このため東海道新幹線は東京の運線指令所において機械的に集中管理していましたが、岡山への延長と同時にコンピュータ管理へ移行しました。これが新幹線運行管理システムCOMTRACです。COMTRACは最初はポイントの管理だけでしたが、その後コンピュータ技術の発達とともにダイアグラム作成、変更支援、車両の割り当て、駅の表示設備管理や放送連動などの機能が付加されて、現在では三大都市圏の在来線でも同様のシステムを導入しています。駅で聞こえる不自然な放送や行先案内が運行管理システムによるものです。

3.総括

MARS(マルスと読みます)もCOMTRAC(コムトラックと読みます)も最初は単純な支援機能だけを持っていましたが、システムそれ自体が情報通信技術の進化を促していった性格を有しています。東海道新幹線自体は鉄道ルネサンスを引き起こしたのですが、新幹線のサブシステムであるオンライン管理システムは今ではネット社会を支えるインフラストラクチャーとなっています。少なくとも、日本人は物まねばかりではないし、情報通信産業に少なからず貢献していることをこれらのシステムは示しています。

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