事業再構築を考える(4) 「技術者の夢、マーケティングの技」

1.東京-大阪間3時間への可能性

日本海軍 15試陸上爆撃機(銀河) 3号機、撮影時期不明、撮影場所不明

 戦前から、東京から下関までを従来の線路とは違う線路で高速列車を走らせる計画はありました。このため、鉄道省の時代から専用線による高速列車の運行を実現すること自体は鉄道技術者の夢ではあったのです。ただ、問題は昭和30年代の一般大衆に需要があるかどうかを把握することは困難であるということです。すなわち、説得材料がない中で需要の有無を確認するために実際に試験線を建設し、試験車両を運行することは不可能でした。

そこで日本国有鉄道鉄道は鉄道技術総合研究所開設50周年記念講演「超特急列車 東京―大阪3時間への可能性」を開催し、新幹線構想を初めて一般に知らせる行動に出ます。本講演が開催されたのは1957530日の雨の日でした。雨の日であるにもかかわらず、会場となった東京銀座の山葉ホールには立ち見まで出たため、一般への関心は高かったということになります。講演の結論は漏れ伝わるところによれば「現在国鉄が保有する技術で東京―大阪間3時間の鉄道建設は可能である。後はそれを日本国民が建設を選択するかどうかである」というものです。その後、車両、軌道、台車、運行管理の技術者がそれぞれについて可能である理由を述べたということです。

専用線で高速列車を走行させることは鉄道技術者の夢であったとともに、東海道新幹線計画は空技廠 P1Y「銀河」の主任設計者三木忠直客貨車研究室長他の旧陸海軍の航空技術者が持っていた平和への夢が詰まっていたものでした。最初は夢からスタートした東海道新幹線建設は十河信二国鉄総裁の執念と島秀雄国鉄技師長の補佐のもと、完成へと向かいました。繰り返しますが、新幹線の建設は技術者の夢からスタートしたものです。

 

2.2時間が心地いい

 

Description Kintetsu 21020 Source Own work Date 2008-02-11 Author Kawaguchi

1964101日に東海道新幹線が開業して以来、近畿日本鉄道は看板列車である名阪甲特急の運行継続の可否を問題しました。輸送量及び輸送力で競争力がないことが明らかになり、1両で走らせることまで検討されていたそうです。このため、近畿日本鉄道は特急の運行形態を都市間連絡から名古屋、京都、大阪の新幹線の各駅から奈良・伊勢志摩への観光地への輸送に切り替えるとともに、ASKA(All-round Services by Kintetsu and its Agencies)システムを駆使した「快適さ」を前面に押し出します。快適さを追求する流れの中で、1988年従来の近鉄特急のイメージから脱却した『名阪特急アーバンライナー』を投入します。

アーバンライナーの車両自体は従来比25%増しの走行性能を持ちますが、アーバンライナーの売りは「遅さ」です。車内で仮眠する、レポートを書く、資料を読むといったことをするためには45分では短いことを踏まえて「2時間が心地いい」といいます。 アーバンライナーの成功は、従来のイメージを打ち破った車両の投入、快適さを追求した車両、料金の安さが要因となり新幹線を利用していた乗客の一部を近鉄に取り戻すことに成功しました。特にグリーン車並みの設備を持つデラックスシートは追加料金420円という破格値もあって人気商品となりました。名阪甲特急は近鉄特急の中では一番速い列車ですが、「遅い」ことを売りとする逆転の発想が成功の秘訣となりました。

 

3.ひかりレールスター

 

 

「ひかりレールスター」の運用に就く700系E編成 2008年4月26日 山陽新幹線 相生〜岡山 Taken by DD51612

新大阪から博多を結ぶ山陽新幹線で運行されていた「ひかりレールスター」は速さを売りにしないという新幹線の中では異質な性格を持って売り出されました。これは山陽新幹線の路線特性からくるもので、山陽新幹線は東海道新幹線とは異なり、ビジネス客中心ではありません。また、福岡市は空港が博多駅から地下鉄空港線で2駅しか離れていないため梅田―天神間で正確に1時間飛行機にアドバンテージがあります。本来なら東海道新幹線より速さの追及が必要なのですが、環境基準の都合で300m/hより速くできない、JR本州3社の中で収益力が一番弱い、速度以外で顧客を航空機から奪う必要がある、といった事情から指定席の座席をグリーン車並みとしたひかりレールスターが投入されました。この結果、航空機から鉄道に乗客移転が見られたようです。その証拠に伊丹―福岡間の航空機の機材が今はプロペラ機主体となっています。

 

4.まとめ

 

これらの例は技術革新であるというより、発想法を変えることによって新たなサービスを提供しているといえると思います。事業再構築を考えるにあたり、今までのビジネスについて違った見方することを通じて、事業の寿命を延ばすことができる可能性があることを新幹線の事例は示しています。

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