事業承継を考える(5) 『事業承継支援マニュアル』によると

 独立行政法人中小企業基盤整備機構が編纂している『事業承継支援マニュアル』なる書物があります。電子書籍になっていますのでネット上でだれでも閲覧可能です。当該書物によりますと事業承継にとって一番大事なのはいかにして納税額を減らすか、ではなくて「誰にいつ何を残すか」が大事であるといっています。なお、相続税対策はほんの一部ですと述べられていますがその通りだと思います。確かに、相続税対策は重要な問題でありますが、何をどう残すかが定まらないことには相続税対策を講じる必要はないといっても過言ではありません。

では、何も対策を講じないとすればどのようなことが起きるのでしょうか。例えば、私の場合で申しますと、ノウハウ、ネットワーク、信用といったいわゆる「知的資産」を引き継げないと思います。と申しますのも、私の父は商社を創業して四半世紀を経過しています。従来の仕事人間の経験も加えますと半世紀を超える仕事人経験を持っています。その集大成が今の商社の運営にありますから、会社は生き様になります。このため私からすれば父の会社の事業承継は人となりを引き継ぐことになると考えています。経済的合理性の観点はどうであれ、人道的見地からは事業を引き継ぐ以外の選択肢はないと思っています。とは申せ、どのような思いでしょう会社を作り、運営し、後身に託したいのかが見えてこないので、ここを感じる必要があると思っています。引き継ぐのに重要なものは、企業の存在意義の根幹をなす「見えない資産」である知的資産をいかにして引き継ぐかが肝要である、となります。

そこで、『事業承継支援マニュアル』を眺めますと、事業承継対策を講じなければ何が起きるかに関しては4つの例が示されています。なお、『事業承継支援マニュアル』自体は支援者向けの書物ですが、閲覧自体は中小企業基盤整備機構のホームページで電子ブックの形態ならだれでも閲覧が可能です。第一は社長を長男に譲ったものの経営の実権は創業者である親が握っているケース、第二は事業承継の準備をする前に経営者の判断能力が低下したケース、第三は後継者に事業用資産の集中が出来なかったケース、第四は自社の魅力を後継者が承継できていないケース、となっています。これらのケースにおいて、最終的には後継者が不在で廃業ということになっているようですが、あくまで表面的な理解がそうであって実際には事業承継の準備不足が要因であると推測されると中小企業基盤整備機構は言っているのではないかな、という気がします。

経営権を承継できないのは後継者が頼りなく見えることが要因ではないかと推測されますが、後継者を育てるのに会社を学ばせることだけで平均で5年の年月を必要とする統計結果が出ております。これに帝王学を学ばせることを加えると子供のころから仕掛ける必要があります。仮に認知症になったとしても成年後見人の利用は現実的とは言い難いと思います。また後継者に事業用資産を集中させるためには、事業用資産以外の資産を使って残りの相続人を満足させる必要があるかもしれない。自社の魅力は説明するのではなく感じるものだといわれるかもしれませんが、最初のきっかけは説明が必要でしょう。ただ、これら4つの事例では対策がすべて異なってきます。先代が元気なうちに事業承継対策を始めることが必要です、と中小企業基盤整備機構編『事業承継支援マニュアル』が述べていますがその通りだと思います。税制だけの問題ではありません。

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