事業の創造  阪急電鉄小林一三の取り組みを参考に

今回阪急電鉄を取り上げた理由は、事業の構築を行うためには顧客創造は必須であること、事業構築を行うためには実施者が無理をしてはいけないことの具体例として、適切な解説者がいれば阪急電鉄の事例は理解可能であるということにあります。顧客創造と事業構築のためにはある種の想像力が必要であること、真似はできないからと言って気にする必要はないことを示すのに典型的な事例であるということから取り上げています。

事業構築を考えるに当たり収益の源泉を確立することは必須となります。収益の源泉を構築することはすなわち顧客を創造することが必要となります。阪急電鉄の事業システムは「電車の乗客を増やす」という観点から開発された、一人の顧客から異なる数個の方法による収益を確保するシステムです。

また、行う人間に無理が生じるような内容は破たんするため、事業構築は無理をしないことが要請されます。阪急電鉄が行った顧客創造手法は、その企画を行った小林一三氏から見れば無理をしたものではありません。通常の鉄道会社では電車の運行と少女歌劇はつながりませんが、小林一三氏から見れば発想の飛躍ではありませんでした。

小林一三氏は甲州生まれで慶応義塾文科を卒業し、三井銀行から阪鶴鉄道監査役として派遣され、岩下清周氏から「君自身が経営の全責任を負いなさ
い」一喝されて阪急電鉄の創業者になった人物です。実は箕面有馬電気軌道が設立された時は不況で、株式の引き受け手の過半数はいないという状態でした。不況であることに加えて、大阪から有馬間ではなく大阪から宝塚間の旅客運送は期待できないと当時の経済人は普通に思ったのです。

皆が失敗する思われた中で計画された事業の肝は、安定した乗客を生み出すことにあり、鉄道開業と同時に家の住み方のパフレットを作ったのです。また、「大衆」に良質な住宅地を供給する意図をもって開発を行った結果、阪急沿線は閑静な高級住宅地であるというイメージを作り出すことに成功します。

阪急電鉄は乗客を生み出すために沿線とターミナルを開発したことが特徴であり、人の集まる場所をターミナルにしたわけではありません。駅に百貨店を作ることも、郊外の町に歌劇劇場を建設することも安定した乗客を作り出すことが目的であり、そのためには沿線内で日常生活から娯楽まで完結させたのです。

一般に小林一三氏は鉄道業界のアイデアマンであるといわれていますが、彼が鉄道業界で異端たりえたのは思うに文科出身であることが大きな要因であると思います。安定した収益のために必要となる乗客層を特定し、彼らの望む生活スタイルを提案することが阪急電鉄スタイルの特徴といっていいと思います。ただ、普通の鉄道事業者には同じスタイルを行うことが困難であるようで、戦後になって阪急電鉄の後継者やほかの私鉄で取り入れられたのは一部分だけでした。東急の五島慶太氏が小林一三氏の教えを受け、経営スタイルをアレンジしたことからも示せる通り、阪急電鉄小林商法は事業創造にとって参考になることは示されています。

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