「孫子」を読む(17) 「経営は臨機応変や!」

IMG_1636孫子勢篇第五には「戦勢不過奇正、奇正之変、不可勝窮也。」とあります。「戦いには正(=敵を食い止める直接的な力)と奇(=敵の意表を衝く間接的な力)の二つの力が存在するにすぎないが、その組み合わせによる変化は無限であり、常人の精神をもってしては、そのすべてを捉えることは不可能である。」と読めば、「以正合、以奇勝」から考えると無限の組み合わせが存在します。原理原則に従って敵を食い止め、敵の意表を衝く能力でもって攻略するというのですが、敵の意表を衝く能力というのは深い考察の上で確保されます。過去に使われた「敵の意表を衝く能力」は今においては「敵を食い止める直接的な力」になります。これは「過去の戦史研究」から導かれることになります

タイトルに掲げた「経営は臨機応変や!」(本来は、企業経営は臨機応変の連続であって、原理原則なんかあっても飯の種にもならない、でした)というのは、頭でっかちな私に対するアドバイスです。確かに、原理原則のみに従うと相手に出方を読まれることになるため、敵はこちらの出方を簡単に入手することになります。更に海軍乙事件に見られるように作戦計画書を盗まれたりするとボロ敗けすることになります。そういう観点からすると「臨機応変の連続」が重要になります。

では、「原則なき臨機応変」に問題がないのかといえば、仮に社長がこのように「経営は臨機応変」にとメッセージを上げたとしますと、現場は「経営者のように臨機応変に対応すること」が求められます。思うに、「みんなが経営者」であればこのような要求をしても機能するとは思いますが、現場では「経営者のようにふるまう原理原則」がないと機能しません。このため「原理原則なき」を実現するに原理が必要となります。

原理原則と臨機応変を組みわせると、「その組み合わせによる変化は無限であり、常人の精神をもってしては、そのすべてを捉えることは不可能である。」ということになりますから、原理原則に凝り固まることも、臨機応変をうまく発揮できなくて苦しむこともあまり良くないのではないでしょうか。

『事業システム戦略』第6章にあるように、企業経営の基本には設立目的から導かれる「理念」が存在することが重要となります。企業理念の目的の中は同書によると人々を動機づける、判断基準、コミュニケーションのベースの三点だといいます。2人以上の人間が同じベクトルで行動しようとするとこの3点の機能は必ず必要です。ただ、松下電器産業にいう「水道哲学」ののような機能を持っている理念にはなかなかお目にかかれないのは、経営理念はその形成に時間がかかることと、「理念では飯が食えない」と思う人が多いことに由来します。

臨機応変に対応しようとするとき必要になる要素は理念と知識と想像力です。リネンで考える基礎を確保し、知識で過去にどのように対応した事例があるのかを確認し、想像力で目前におきている事象に対応することを可能とする状態を見つけ出すことにあります。適切な対応をするにはこれらのうちすべてを欠くことができません。理念が考えるベクトルを合わせることができるようになること、知識とは過去の他人の経験を参考にし、想像力によって臨機応変の類推を確保することになります。

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