近畿日本鉄道を題材にM&Aを考える (4)-『東への鉄路』

阪急電鉄の創立については、創業者である小林一三による自伝「逸翁自叙伝」という一般に入手しやすい書物がありますが、近畿日本鉄道の創業期が舞台となる、木本正次著『東への鉄路』という入手が容易な小説も存在します。私はこの小説の存在を恥ずかしながらYahoo知恵袋で知ることになります。

408e2f60-fccc-41f1-b036-85dfd8ff196bこの『東への鉄路』は近畿日本鉄道(当時)全面協力のもと執筆された小説で、のちに登場する会社となる参宮急行電鉄専務取締役井内彦四郎氏が主人公です。本記事が、近畿日本鉄道を題材にM&Aを考えるとなっていますが、まさしくM&Aの実働部隊の責任者として機能するのが井内彦四郎氏であるため、「近鉄創世記」なる副題を持つ小説『東への鉄路』の主役が井内彦四郎氏となります。

さて、大阪電気軌道が会社整理を断行する際に、同時に整理対象となった大林組と同社に貸し付けを行った北浜銀行(のちの三菱東京UFJ銀行の傍系の先祖となります)の再建を一手に引き受けた土佐出身の片岡直輝氏によって、大阪電気軌道に技術者一名、経営者一名が派遣されます。これにより派遣された人間の一人が土佐出身の井内彦四郎氏です。

土佐出身とわざわざ言うのは、井内氏は東京高等商業学校(現在の一橋大学)卒業時に、これまた土佐出身の三菱合資会社管事豊川良平氏から依頼された三菱の入社試験を蹴ることにより片岡氏との接点を持つことになったからです。『東への鉄路』とは井内氏が大阪電気軌道に入社するにあたり三菱の豊川良平氏から個人的に「大阪から東へ一直線に東京まで線路を引いて高速鉄道を作れ」という指令を受けます。この時に用いられた主な手法がM&Aです。

2015年現在では奈良県と三重県において、近鉄ホールディングスとその子会社である近畿日本鉄道、奈良交通や三重交通といった近鉄グループの影響なしに生活をすることはほぼ不可能ですが、そのこと自体を悪いのではなく「おらが近鉄」という意識を持ちます。この点は、猪瀬直樹前東京都知事の著書「ミカゲの肖像-プリンスホテルの謎-」で触れていたのですが、「西武は気持ちよく金を支払えるように出来たから、宮様は西武に土地を売却できたのだよ」というコメントに通じるものがあると思います。

私は税理士という側面も持っていますが、「気持ちよく納税する」という方はほとんどいませんので、納税という観点からコメントはしませんが、商売を考えるにあたって「気持ちよくカネを払う」ようにするにはどのようにアプローチをするのかを考えることが商売の設計においてきわめて重要な要素になると考えています。

余談ですが、「付加価値をつける」といいますが、付加価値という言葉の意味は会計畑の人間とマーケティング畑の人間では違います。違う理由は単純に付加価値を金額で示すか示さないかですが、付加価値の意味するところはモノの価値以上の何かです。付加価値の正体は人間の活動であることが多いのです。人が動くことに対して買い手が妥当だと思うとき付加価値相当額を支払うのでしょう。M&Aの時問題となる、会計上の「のれん」(暖簾は店に飾るものでしょうが、のれんはれっきとした会計用語です。またの名を営業権といいます)正体もこれだと思います。

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